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インタビュー 番外編
今野ひろこさん(オーソドキシー)

その3

■いよいよオーソドキシーの秘密に迫る

(今野)オートクチュールとオーダーメイドってありますが、どうしてうちがオートクチュールっていうかわかりますか。

(山本)オーダーメイドじゃなくて? オーダーメイドってお客様の要求されるカタチをそのまま作るだけのような印象があるからでしょうか。

(今野)オーソドキシーがオートクチュールだという理由は、オーダーメイドは使い古されすぎてしまって、うちのやっていることとあまりにイメージがかけ離れすぎてしまっているので、あえてオートクチュールと言ってるんです。

(山本)鞄のオーダーメイドって、お客さんが図面やイメージを持ってきたものをそのまま作るっていうことではないですよね。

(今野)それはありえないですね。もし、他のオーダーメイドのお店でそれをやったとしたら、お店からできないって断られるか、出来上がってきたらこんなはずじゃなかったのどちらかになると思います。実は、鞄のテクニックって鞄の種類だけあるんです。たとえば10種類鞄があったとします。そしたら10種類のテクニックがあるので、普通の職人っていうのはその10種類の中のせいぜい2種類か3種類までのテクニックしか持ってないんです。ところがお客様っていうのはいろんな商品を見て、いいところ取りをしたい。そうするとテクニックとしてはたとえば5つ入ってたりします。すると3つ持っている職人には作れませんってことになります。

(山本)なるほど。オーソドキシーだとそれはすべて可能なんですね?

(今野)そうですね。ほとんど大丈夫です。うちができないのはトランクとか、ああいった箱物ですね。トランクなどの箱物は、内側の木箱から作っていくことになるので、そのジャンルは切り捨てました。そちらにも手を出していたら、今のような融通の利く技術は手に入れられなかったでしょうね。

(山本)今野さんのところで何か物を頼むと、スケッチ画を今野さんが描いて、サイズも特に何ミリとか言わずに、何を入れますかっていって質問されて、革の色と糸の色とかがあっという間に決まっていきますよね。あれってすごく不思議です。

(今野)まず、鞄を注文する人は構造について知らなくて当たり前だと思ってますし、職人には寸法を与えて作ってもらわなきゃいけないのもわかっています。その間のインターフェイスが私なんですよ。たとえば、お客様が作りたいものがあるとします。お客様の希望は構造的に3つのパターンで実現できるとします。ところが、それぞれの特徴も見た目も違うし、実は足せるものと足せないものが出てくるんですよ。私は、そういう判断をしながら、話を運んでいるんですが、全部見えているのは私だけなので、「あれーなんだか決まっちゃった」という感じになるとは思うんですけど。

(山本)たしかに、お客さんとしては機能だとか、自分がこういうふうに使いたいとかは考えるけど、鞄の構造とかサイズとかは考えずにお店に来ますよね。それを引き出すというか、今野さんが汲み取っているということですね。だから、お客さんにはサイズとかあえて何ミリとか伝える必要はないんですね。

(今野)鞄を作るときに一番怖いことは、指定されたものが入らないことなんですよ。だからやっぱり中身を聞きますね。以前、うちのウェブのオーダーストーリーで出した話なんですけど、お客様がスケッチ画をかなり詳しく描いてこられて、寸法を全部指定して、それをインターネットに出ていたどこかのお店に発注を出したんですって。そしたらろくに質問も来ないで「わかりました、料金はいくらで、いつごろできます」ってことだったので、注文したんですね。しばらくして完成して届いた商品を見て、お客様は、あまりに自分のイメージと違っていて呆然としたんだそうです。でも、気を取り直して計ってみると自分が言ったとおりになっていて、クレームがつけられないわけですよ。それをうちの店に持って来られたんです。「こういうのができちゃったんですけど、本当はこうじゃないのを作ってほしい」って言われて、「こういうふうにお作りするんだと思うんですが」ってスケッチ画をお見せしたら、「これですこれです」って言われました。それくらい、ひとつのテクニックしかもっていない人と、たくさんのテクニックを持っている人ではできることが違うので想像力が違ってくるんです。引き出しはいっぱいあったほうがいい。ところが引き出しをいっぱい作ることが非常に難しいんですね。

(山本)だから、オーソドキシーはお店に来て相談するというのが原則なんですか。

(今野)そうですね。ただ、電話やメールでお話を伺いながら、スケッチ画だけのやりとりだけでご満足していただける方も多いです。それはスケッチ画をやりとりするときに、かなりリアルに縦横の比率を決めることと、寸法もきちんと出来上がりはこれくらいになりますよ、とお伝えしているからですね。あと、中身が決まっている場合は、スケッチもかなり厳密に描きますし、革見本もお送りしますね。その結果、出来上がりが違うってことはほとんどないです。

■ショーウィンドウはテクニックを陳列するスペース

(山本)オーソドキシーって大きな鞄から小物ものまでたくさんの種類のものを手がけてますね。これだけいろんなラインナップを作ることができるということ自体珍しいことではないですか。

(今野)お店のショーウィンドウにたくさん並んでますでしょう。ショーウィンドウっていうのは、うちのお店が持ってるテクニックをお見せしているんです。普通のお店だと、右から仕入れて並べるだけなんですが、うちは全部自分のところで作っているわけですから、まあ出し切れていないところもありますが、これだけたくさんのテクニックを持ってますよっていう、まさにディスプレイなんですよ。自前で商品をつくるお店としては、うちは異常に多いですね。

(山本)鞄から小物までは普通は無理だって言われますよね。

(今野)小物は特に難しいですね。だから「超」整理手帳もその点では難しいですよね。

(山本)オーソドキシーの小物や鞄って軽いのが特徴ですよね。これって何か秘密があるんですか。

(今野)平たく言っちゃうと、軽くする工夫をしているんですよ。

(山本)革自体が軽いとかそういうことではなく?

(今野)革が軽いのではなく、工夫で軽くしているんです。結局ね、革製品の長持ちの度合いっていうのは重さに比例してくるんです。軽ければ軽いほどもたない、重ければ重いほどもつ。だから一流ブランドのバックは重いですよね。長持ちしますよね。あれだけ重かったら、あれだけ長持ちするのは逆に当たり前なんですよ。外国でブランドを持つ方っていうのは車で移動するじゃないですか。間違っても地下鉄に乗ったり自分で持って歩いたりしないわけですよ。そういう社会で作られているからそれでいいわけです。でも日本の社会って普通の方がオシャレで、自分の手で荷物を持って歩くわけですから、私のつもりとしては毎日持って10年もてばいいやという感覚で作っています。この辺は経験で見極めています。極端な話、1年もってくれたらいいと言われたらもっと軽く作ることもできますし、逆に一生もちたいって言われたら重く作らざるを得ないですね。

(山本)オーソドキシーの商品って、部位によって革の厚みが微妙に違ってますよね。

(今野)そうなんですよ、よく気がつきましたね。全部計算に入っています。だからレシピがいかに複雑かっていうことです。こういう風につくっているので、とてもじゃないですけど量産は無理なんですよ。工場に同じ商品を作らせることは不可能なんです。やはり一つの商品を一人の職人が最初から最後まで手がけてるからできるわけで。

(山本)そういうのをお客さんに伝えることなくやっているんですね。

(今野)そうですね。いちいち伝えてたら一つの鞄で一日費やさないといけなくなるんで。だからお客さんには鞄に入れる中身を聞くんですよ。重さとか、どういう使い方をするのかとか。それを後で私が考えてバランスをとっていくわけです。

(山本)それがオーソドキシーのノウハウなんでしょうね。お客さんにはスケッチしか見せないんだけど、裏側ではそういう工夫をやっている。工場では真似できないですね。

(終了)
 収録日:05.9.30 @オーソドキシー
 ●オーソドキシーウェブサイト

オーソドキシー外観と店内のディスプレイの一部

 

 

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